お急ぎの方へ(4)

 

独り立ちの訓練

 

長期保護することになっても、まだ自然界に復帰させることは可能です。
つばめは寒さに弱く、食物である昆虫類も減りますので、日本では一部の越冬地を除いて、冬を生き延びることは難しいことです。
また、人間の与えられる餌には限りがあるため栄養障害になりやすく、長く生かすことは困難です。
一方で自然の状態でも巣立ちヒナが成鳥になれる確率はなんと2割程度です。人の手で育てられたヒナはもっと確率が低いかもしれません。

つばめは約5000キロもの渡りをすると言われています。渡りはとても過酷で、野生のヒナの多くが命を落とすといわれています。

もしも保護したつばめがうまく飛べなかったり、リリース出来るようになった時期に、もう渡りが始まっている場合など、リリース出来ない場合は、ずっと手元に置いて家族の一員として最後まで世話をするという選択肢もあります。
実際に10年以上も室内で保護された方もいらっしゃいます。

保護したつばめが健康でリリースの条件(お急ぎの方へ(5)参照)が整っているのならつばめの本当の世界に返してあげるのがその子の幸せだと思います。
ただし、放してしまった後の事は誰にもわかりません。  
最後は里親さんのご判断にお任せします。

自然に帰って生きてゆく術を人間が教えるのはとても難しいですが、それでも教えてあげられる事はあります。それに野生動物には強い生命力があります。自然に帰す決心をされた里親さんは諦めずに訓練してあげてください。

こちらも参考になります!→ピッピ ツバメの雛、保護から放鳥までの記録
京都野鳥の会の幹事で獣医師の三宅慶一先生から会誌に寄稿されたつばめの飼育記録です。(PDFファイル)推定生後6日目から、57日目まで、17回に及ぶ野外での放鳥訓練をされるなど、家族総動員の子育て記録です。

 

※許可なく野鳥を飼う事は法律で禁止されています。
日本野鳥の会のホームページ内、各都道府県の鳥獣保護係の連絡先リスト
で地域の連絡窓口を探して相談してください。
県によっては傷病動物の保護や、自然に帰すためのリハビリ施設などがあります。

 

飛べないヒナの頃から

(1)お散歩

よちよち歩きの小さい頃から外の世界に慣れさせるのは放野への大切な訓練です。
室内で飼育していると、あまり日に当たれませんし、仲間の姿を見るなどの刺激も少なくなりますので、お散歩に連れて行ってあげてください。
近所につばめが居れば、その近くで見せてあげれば、ちゃんと仲間だとわかります。ただ、まだちゃんと飛べないのに急に飛び立ってしまうことがありますので注意してください。(わたしは巣立ってからお散歩に連れて行ったので、洗濯ネットの目の粗いものに入れておりました。効果は…イマイチだったかも…かごの方が良さそうです)

 

(2)ひとり餌の訓練

餌やりに慣れてきたと思ったら、なるべく早い段階で自分でつついて食べる訓練も並行して給餌してください。ただし食べる量が減らないように注意して下さい。
自然では巣立ち後もしばらくは親から口にエサを入れてもらうのですが、人間が育てる場合は、人間に慣らさないように飛べるようになってからは接触を少なくした方が良いので、巣立ちまでにひとり餌ができるようになっている方が良いと思います。(反省をこめて。巣立ってからの訓練では、つばめが動く範囲が広いので大変です)

目の前で餌をみせ、つばめが口をあけてねだったら足元に落としてつつかせます。はじめは興味を示さなくても、何度も繰り返すうちに食べるようになります。これが出来たら、少しずつ挿し餌(人間が口に入れて給餌すること)の回数を減らし、餌を探すように仕向けます。大きい台の上にミルワームやすり餌を小さくだんご状にしたものをまいて、自分で探して食べさせます。

    

(3)巣立ちを促す

自然の状態のヒナはまだうぶ毛がたくさんあるうちから巣の中や淵で羽ばたきの練習を始めます。換羽が終わったら初飛行は間近です。
わたしが近所の巣を観察したところ、自然のヒナでも、巣立ちの時期には個体差がありますが、頭に生えているモワモワしたうぶ毛がなくなっても、巣箱でじっとしているようなら、ちょっと臆病なヒナかもしれません。巣箱から飛び出す練習をさせましょう。
親鳥がヒナの巣立ちをさせる時は、ひなが外に出るのを怖がって親鳥は苦労します。特殊な声で呼びかけたり、えさで釣りますので、これをまねしてみましょう。
また、自然の状態では、親鳥に加え、先に巣立った近所の巣立ちヒナやヘルパーのつばめが巣の周りを飛び回り、ヒナを刺激します。出来るだけ仲間の飛ぶ姿を見せて下さい。

まず飛び立ちの訓練は、餌をヒナの目の前で見せつけ、欲しがって鳴かせるようにします。その餌を巣箱の外箱のダンボールの淵のあたりで振って見せます。
ヒナは餌を取ろうとして巣箱から飛び出てくるわけですが、はじめのうちは踏み切りのタイミングが合わず、落ちたりダンボールにぶつかったりします。
何度も繰り返すうちに上手く踏み切れるようになります。名前があるなら呼びかけたり、鳴き真似をするなどしてヒナを誘いだすと良いそうです。

飛び立ちができたら、低いテーブルなどにヒナを乗せ、自由に飛べる環境にしてやります。巣の外の環境に慣らす事が大切です。

どうしても自分から飛び立たないようなら、羽根を閉じた状態でうえからそっと体を包んで持ち上げ、手を離すと反射的に羽ばたきます。落ちても大丈夫なよう、低い位置で、障害物から離して行ってください。

 

飛び始めたら

(1)飛行訓練

自然では、飛べるようになってからも数日間は巣に戻って眠りますが、しばらくすると電線などで寝るようになります。
初飛行が出来たら、できるだけ広いスペースにロープなどを張ってその上で寝るように仕向けます。日中ずっとロープにとまらせておけば、自然と巣には戻らなくなります。
つばめは高速で飛ぶ鳥ですので、飛ぶ為の筋肉を充分に発達させなければなりません。出来るだけ鳥かごには入れず、室内で放し飼いにしてください。
やむなくカゴに入れる場合は、金属製のものは羽根を傷めやすいので使わないで下さい。少し高価ですが竹製のものがあります。また、ダンボールに窓と
止まり木を付けたものでも良いです。保温性があり、羽根を傷めません。

 

*注意点
巣箱から出ると、思わぬ事故が多くなります。床に降りているのに気が付かないで踏んで死んでしまった悲しい例もありますので、
なるべく隠れるところが無いようにしてください。
家具と壁の隙間に落ちて翼を傷めた例もありますので、新聞紙などで塞ぎます。
ガラス窓も、はじめは鳥には理解できず、激突していきますのでレースのカーテンを閉めておくなどして、徐々に慣らしたほうが良いです。
また、人間に慣れた鳥は、夜人間の布団にもぐりこんで来たりするそうですので、人間と別の部屋で寝かせるか、夜間は鳥かごに入れる等してください。
鳥かごは高価ですし夜間だけの事ですので、ダンボールに空気穴をあけ、止まり木をつけたもので代用しても良いです。

部屋の中を何度も旋回して飛びまわれるようになったら、外に放しても落ちることは無いですが、すぐに放野、というわけにはいきません。
飛ぶ虫を捕まえるには複雑な飛び方が必要になります。このため、往復飛び、静止飛び(ホバーリング)、複雑に方向転換する飛び方の練習をします。餌でつったり、つばめの興味を引く物(音に敏感です)を振って追わせるようにします。ちょっとびっくりさせて急な飛び立ちも出来るようにしてください。

    

 

つばめの尾羽根には体の向きを変えたり飛ぶスピードを調節する機能があります。写真左側の巣立ち直後の尾羽根はまだ短いので、複雑な飛び方は出来ません。尾羽根が伸びて写真右側のように白い斑点が出てくる頃には複雑な飛び方が出来るようになります。

 

巣立ち直後の尾羽根

巣立ち17日後の尾羽根

 

 

(2)飛ぶ虫を捕まえる訓練

つばめは空中で虫を捕まえて食べる鳥ですので、飛ぶ虫を食べさせる訓練が必要です。飛ぶ虫を捕獲出来て、室内でも放すことが可能なら、そうしてあげるのが一番です。トンボやバッタ、羽虫、蚊、羽根アリ、蛾、蝶などを餌にしてください。

しかし住宅事情や生きた飛ぶ虫が手に入らないなどの場合は、「ひとり餌の訓練」で書いた自分で餌を探す訓練に加え、動くものを追って飛ぶ訓練をします。
わたしは糸にボタン(大きめのもの)をくくりつけたものを振り回したり、ピンセットをカチカチ音をさせたり、指をこすり合わせてカサカサ音を立てて狙わせました。音に敏感なようです。

また、ちらちらする小さいものは本能的に追いかけるようです。つばめの興味を引くものを探して、動きを止めずに喰い付かせるようにします。
餌でつるのも良いです。ホバーリングさせて餌をくわえさせたり、空中キャッチさせるなど色々工夫してください。

 

(3)水を飲む、水浴びをする訓練

つばめは飛び始めると、自分で水を飲むようになります。また、体についた汚れやダニなどを落とすために、水浴びもしますので広い水場を作ってあげてください。
始めは水を怖がりますので、水を飲む練習から始めます。
いきなり深い容器にたくさん水を張ると溺れてしまいますので浅い容器を使ってください。わたしはお菓子の缶の蓋を使いました。
水の深さは始めは1センチ以下にしてください。また、食品のプラスチックのトレーにラップを敷いて水を撒いておくと、きらきらして水溜りのように見えて、つばめが興味を持ちます。

自分から寄っていかないときは、近くに降ろしてやるか、水の中に置いてあげても大丈夫です。しばらくそっとしておけば水を飲みます。
水浴びもその延長で練習させます。始めはちょっと顎を濡らしたりして遊びます。
そのままそっとしておけばお腹をつけて羽根をバタバタして水浴びできるようになります。人間の手出しは無用です。水をかけたりしないでください。

慣れてきたら自分から水場へ行くようになりますので、少しずつ水の量を増やし、溺れないか見てください。水は毎日取り替えてください。
巣立ち前のヒナの頃は水を飲むと下痢することがあるので、人肌以上のぬるま湯を与えなければなりませんが、水浴びにはお湯は使わないでください。
つばめの羽根は自分の体(尾脂腺というところ)から出た油分でコートされており、これには撥水効果があります。お湯浴びをしてしまうと、この油分がとれてしまいます。
また、水浴びの後はつばめに触らないでください。人間の手の油分で、つばめの羽根の油分がとれてしまいます。
水浴び中、水浴び後はかなり水をまきちらしますのでご注意ください(^^;

 

 

 

 

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